獣医も農家さんもケトーシスの治療で真っ先に思い浮かべるのが、高張ブドウ糖の輸液である。
高張ブドウ糖の輸液についてまとめてみた。
Contents
1)高張ブドウ糖を輸液する理由
①ブドウ糖によるエネルギーの供給
ブドウ糖は1g当たり4kcalのエネルギーをもつ、炭水化物の一種である。
5%ブドウ糖500ml には25gのブドウ糖が含まれており、体内で100kcalのエネルギーに変換される。ケトーシスの治療に使用する40%ブドウ糖500mlでは、800kcalとなる。
650kgの牛の基礎代謝が12,900kcalで泌乳量40kgの産生にかかるエネルギーが25,200kcal1と言われているので、エネルギーの供給量としては40%ブドウ糖でも全く足りないことになる。
②インスリン反応による脂肪組織からのNEFA動員の抑制
高張ブドウ糖を静脈内投与することで、高血糖状態にすることで、膵臓からインスリンと呼ばれるホルモンを分泌させ、血糖値を下げるとともに脂肪組織の分解を防ぎ、遊離脂肪酸(NEFA)の上昇を抑え、血中BHBA濃度を低下させると言われている。
2)高張ブドウ糖輸液時の体内機序と影響
①血糖値と浸透圧の急上昇
- 血中グルコース濃度が急増
- グルコースは有効浸透物質なので血漿浸透圧↑
- 細胞内の水が血管内へ移動 → 一時的な循環血漿量の増加
高張ブドウ糖を静脈内投与すると、血中グルコース濃度が上昇するだけでなく、血漿浸透圧の上昇作用もある。血漿浸透圧が上昇すると、細胞内液よりも細胞外液の方が浸透圧が高くなってしまい、浸透圧差により、水が血管内に移動してくる。このことから、循環血漿量が増加する。
② 膵臓の反応
- 高血糖 → 膵臓β細胞からインスリン分泌促進
- インスリン:体内にエネルギーを貯蔵しようとする作用
グルコースの細胞内取り込み促進
グリコーゲン合成促進
脂肪合成促進(過剰時)
③腎臓での変化
- 糸球体でグルコースが濾過される
- 血糖が腎臓の許容量(牛:約150〜200 mg/dL)を超えると再吸収しきれなくなる
→尿中に糖が出現(尿糖)
- 尿糖による浸透圧利尿 → 水・Na⁺・K⁺・Mg²⁺喪失
- 一時的にADH分泌抑制、RAA系抑制 → 利尿持続
④電解質の変化
- K⁺低下:インスリン作用で細胞内へ移動、尿中排泄増加
- P低下:インスリン作用で細胞内へ移動
- Na⁺低下:初期は希釈性低Na血症、尿中排泄増加
- Mg²⁺低下:尿中排泄増加
⑤エネルギー代謝面
- 細胞内に取り込まれたグルコースは解糖系やTCA回路でATP産生
- 肝臓でグリコーゲン合成促進 → ケトン体生成抑制
3)高張ブドウ糖の推奨輸液速度
ケトーシスの治療時、25〜50%ブドウ糖1日1〜2回、0.5g/時/kg、2〜3日反復投与と言われている。2
4)キシリトールの作用機序
- 持続的に肝臓でグルコースへ変換される。
- グリコーゲン合成を促進し、肝臓のエネルギー貯蔵を改善。
- インスリン分泌刺激が緩やかで、低血糖を起こしにくい。
- 長時間にわたり抗ケトン体作用を維持できる。
5)高張ブドウ糖とキシリトールを併用すると
即効性 + 持続性
- ブドウ糖で「すぐに」ケトン体産生を抑え、キシリトールで「長く」肝臓のエネルギー代謝を安定化。
肝臓保護効果
- キシリトールは肝臓でグリコーゲンを合成しやすく、脂肪肝やケトーシスに伴う肝機能障害を軽減できる。
副作用の軽減
- ブドウ糖単独だと急激な高血糖 → 反応性低血糖が起きやすい。
- キシリトールを組み合わせると血糖変動がマイルドになる。
6)まとめ
ケトーシスの成牛に高張ブドウ糖を投与することで、エネルギーの補給にはならないが、高血糖状態になることで膵臓からインスリンと言われる体内にエネルギーを貯蔵する作用のある物質を分泌させることができる。肝臓でグリコーゲンと呼ばれる貯蔵物質を作る方向に動くことで、ケトーシスの原因となるケトン体の生成を抑制する。
また、キシリトールと併用することで、ブドウ糖が即効性を発揮し、血糖補正・インスリン刺激・ケトン体抑制を起こす。そして、キシリトールが持続性を発揮し、肝臓でグルコース・グリコーゲン合成・ 長時間の抗ケトーシス作用を起こす。結果として、短期的効果(ブドウ糖) + 長期的安定化(キシリトール)が得られる。3
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